世界標準となったQRコード。そのビジネスモデル
バーコードは一次元だけですが、QRコードによって、二次元の面の中に様々な情報を詰め込むことができるようになりました。
このQRコード、印刷するだけなので紙の上だけでなくさまざまなところにも使えます。
例えば、海老煎餅をベースに使用した印刷方式のサービスとしては世界初の食べるQRコード「QRえびせん」があります。
食品製造販売の志満秀という会社とインターネットコンテンツ制作のヘルツというベンチャーが行った面白い取り組みです。
志満秀の煎餅は、贈答品などで人気だそうですから、このQR煎餅をもらった人は見てビックリすると思います。
思わず気になって、スマホで読み取る方も多いと思います。
このQRコードは1994年にデンソーの開発部門(現在は分離しデンソーウェーブ)が開発しました。
QRコードは(株)デンソーウェーブの登録商標です。
デンソーがこのQRコードを普及させるにあたり、まず、QRコードを規格化して世界標準にしました。
これによって、粗悪品や模倣品の出現を抑えて、QRコードを広めることができます。
そして、デンソーは、規格に則ったものであれば、このQRコードを誰でも使用できるようにオープンにしました。
実際に誰でも無料でQRコードが作れるサイトが公開されています。
でも、QRコードを無料で広めるだけでは事業として成立しません。
デンソーの事業の秘密はどこにあるのでしょうか。
デンソーはこのQRコードリーダー機器を事業として成立するようにビジネスモデルを組み立てました。
QRコードが普及すれば普及するほど、これを読み取るリーダーも必要になってきます。
リーダーのほうを独占できれば、こちらでの収益も独占することができます。
似たようなビジネスモデル、他にもあります。
米アドビシステムズ社のPDFもそうです。
これも閲覧ソフトは無料で配布されていますが、編集ソフトの正規版は有料ですね。
アドビ社は、編集ソフトで収益を上げるようなビジネスモデルを構築しました。
特許権の取得で排他と協同との使い分けが自由になる
このビジネスモデルには、次の3つのポイントがあります。
- 市場形成を他社にも協力してもらった。
- 収益をあげる部分をしっかり自社に残した。
- どちらも特許権で参入障壁を築いている。
- 慣れ親しんだ市場に慣れ親しんだ商品・サービスを提供する。
- 慣れ親しんだ市場に新しい商品・サービスを提供する。
- 慣れ親しんだ商品・サービスを新たな市場に提供する。
- 自社だけが独占して提供する。
- 他社にも協力してもらって提供する。
デンソーのような大企業でも、新しい商品・サービスを自社のみで広げるには体力が必要になります。
そこで、QRコードのほうを規格化・標準化した上で、オープンにしました。
いいものは、みんなが使用したいと思います。
バーコードよりも情報量を格納できるこの新しいQRコードの市場を立ち上げ、大きくするために、こちらをオープンにして普及を図りました。
一方、QRコードリーダーのほうは、自社を中心に展開しました。
QRコードが広まったおかげで、QRコードリーダーを販売しやすかったのではないでしょうか。
QRコードリーダーはもちろん特許権で保護されていますが、実はQRコードのほうも特許権で保護されています。
デンソーは、QRコードに模倣品や粗悪品、意図しない派生品が出てきたときには、権利行使する、としています。
規格を維持するためにも特許権で参入障壁を築く必要があります。
デンソーがQRコードやQRコードリーダーで見せたような特許権の使いわけが、ビジネスモデルを特許権で守る、という使い方になります。
収益モデルをどう構築して参入障壁をどこに築くか、が重要
QRコードが広まったおかげで、初めてコードリーダーが売れるという仕組みが成立します。
どこで収益を上げるか、といったことだけでなく、この順番を間違えないことも肝心です。
新しい商品・サービスを生み出すことは重要ですが、それだけではビジネスモデルとしては不完全です。
それを誰にどのように提供するのか、収益を上げるには、どのような仕組みがあればいいのか、どういう順番で提供すればいいのか、どこをオープンにすればいいのか、といったことを考えて、ビジネスモデルを構築する必要があります。
新商品・サービスを自社だけで実施することのメリット・デメリット。
自分がどのような商品・サービスを誰に提供するのか、を決めるときの考え方としては、次の3つがあります。
そして、何等かの商品・サービスを思いつき、実際に提供を開始するにあたって、どのように事業を進めていくか、ここでもまた選択肢があります。
自社で独占して販売できれば、利益はすべて自社のものです。
一方、広告・宣伝に大金を投入して周知できればいいのですが、そのようにはできない場合、せっかくの商品・サービスもなかなか広められません。
もし、製造や販売、販促等、どこかの部分を手伝ってくれるところがあって、一緒に広めてくれれば、自社だけで広める場合よりも早く大きく市場形成できる可能性があります。
QRコードやPDFは、両者をうまく両立させたビジネスモデルではないでしょうか。